デイサービスでの過剰介護や過剰介助がご利用者から奪う3つの物をご存じでしょうか?
デイサービスで過剰介護や過剰介助のまま介護業務を行なうことはご利用者の自立支援を妨げることにつながります。
今回の記事はデイサービスで過剰介護や過剰介助を無くして質の高い介護現場を目指したいと思っている方に読んで頂きたい内容になっています。
デイサービスで働いているとよく次のような相談を受けます。
相談内容
「デイサービスはご利用者によってできることやできないことが違うから、どこまで手伝うといいか分からないです。」
実はこの相談は、新入職員だけでなく中堅やベテランの職員からもよく受ける相談なんです。
中には「ご利用者A様に対して、手を出し過ぎじゃないのかな?」と思いながらも原因の究明や対策をしないまま、過剰介護や過剰介助をしてしまっている方もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、デイサービスにおける過剰介護や過剰介助について次の内容をお伝えしながら悩みを解決していきます。
- そもそも介護や介助って何?
- デイサービスでの過剰介護や過剰介助って何?
- デイサービスではどこまで介助すればいいのか
- 過剰介護や過剰介助がご利用者から奪う3つの物
- 過剰介護や過剰介助が起きる5つの原因と5つの対策
今回の記事を書いている私は、デイサービスで10年以上勤務歴があり職員の指導や教育にも直接関わってきました。
社会福祉士を持つ管理者として現役で職員の指導や教育に関わっていますので、今までの経験と今の経験を元に記事を書いています。
過剰介護や過剰介助について原因や対策を理解して適切な介護や介助を行うことで、ご利用者の自立支援につなげ質の高い介護ができる職員やデイサービスを目指しましょう!
そもそも介護や介助って何?
過剰介護や過剰介助について説明をする前に、そもそも介護や介助とは何なのかについて理解しておきましょう。
介護や介助について理解しておくことで、デイサービスでの過剰介護や過剰介助を予防し質の高いケアを目指すことができるようになります。
介護事典(講談社)によると、『介護』は次のように説明されています。
「自力で生活することが困難な高齢者や障害者に関わり、その人らしい人生を実現すること。」
「高齢者や障害者が生活の主人公になるための自己媒介化の技術」
介護事典(講談社)より引用
ポイントになるのは、その人らしい人生の実現や生活の主人公になるという部分ですね。
よく自立支援という言葉を耳にしますが、その人らしい人生の実現ができる介護が自立支援にとってもキーワードになるのだと思います。
介護と似ている言葉で介助があります。介護と介助は使い分け方が人によって違ったりしますよね。
私が介護と介助を使い分ける時には、『支援全体』か『場面を切り取った支援』かで分けています。次のようなイメージです。
介護=支援全体(その人らしい人生を送るために、どのような支援が必要なのかという全体像)
介助=場面を切り取った支援(歩行や食事、立ち上がり、排泄などで職員が直接その方にどのように関わっていくか焦点を当てた部分)
介護という大枠の中に介助が含まれているというイメージを持ってもらうと分かりやすいかなと思います。
例えばベッドからの移乗に関して、介護と介助を分けて考えてみます。
介護=ベッドから車いすへ移るためにベッドの高さを調整したり、手すりをつけて配置を調整する
介助=ベッドから車いすへ移るために職員が直接支える
上の例で言うとベッドと車いす間の移乗を、ご自身で行なうことができるようにする為にどんな支援が必要かを考えることが介護。
ベッドと車いす間の移乗のご自身でできない部分に対して職員が直接支えたり、移乗の技術を使うことが介助となります。
介護や介助のどちらかを行うことを避けましょうというわけではなく、介護も介助も過剰にならないようにしていきましょうということになります。
では、次にデイサービスでの過剰介護や過剰介助について解説していきます。
デイサービスでの過剰介護や過剰介助って何?
デイサービスでの過剰介護や過剰介助とはどのようなことを指すのか3つにわけて簡単に解説していきます。
私はデイサービスでの過剰介護や過剰介助を、次の3つに分けて考えています。
- ご利用者ができるところまで介護や介助によって支援すること
- ご利用者ができるかどうか微妙なことをできないと決めつけて介護や介助によって支援すること
- ご利用者ができないことをどうやったらできるようになるか検討しないまま介護や介助によって支援すること
一般的には、1番のご利用者ができるところまで介護や介助によって支援をすることが過剰介護や過剰介助と言われることが多いと思います。
ですが実は、2番や3番も過剰介護や過剰介助に当たるでしょう。
ご利用者が、本来はできることでもできないと決めつけてお手伝いをしてしまうことや、できないことをできないままにしてお手伝いをしてしまうことも過剰介護や過剰介助になります。
2番や3番の過剰介護や過剰介助に関して、1つ例を出してみます。
例えば、ご利用者から「ペットボトルのキャップが開けられないの」と相談を受けた場合です。もし自分がこのように相談をされたらどんな返事をするでしょうか?
デイサービスの中で相談を受けた場合には「私が開けますよ。いつでも声をかけてくださいね」と答える方も多いかもしれませんね。
ですが、ご利用者の生活に目を向けた時にそれが正しい返事でしょうか?相談を受けた時に自分が開けてあげるということは、ご利用者には常に開けてあげる人がいないとペットボトルの飲み物を自分では飲めないということになります。
ご利用者の日常生活までを考えた時に、それはご利用者の生活の質が高まっている状態とは言い難いですよね。
ここで確認するべきはご利用者が『なぜペットボトルのキャプを開けられないのか?』という部分です。
- 力が無くて開けられないのか
- 開け方が分からないのか
- 他に理由があるのか
開け方が分からないのであれば開け方を教えたり、デイサービスの活動や機能訓練に取り入れて反復訓練ができるような環境を作る必要があります。
力が無くて開けられないのであれば、少ない力でも開けられるペットボトルオープナーという商品を紹介することも考えられますよね。
この例は、生活の中でもご自身でできる提案をしていくということです。「開けられない」という言葉を聞いて「開けられないと言っているから手伝わなくちゃいけない」と判断するのではないということです。
何故開けられないのかに目を向けて、本当に介助が必要なのかを見極めていくということになります。
デイサービスでは、ご利用者ができる可能性のあることを潰さないというところが重要な介護スキルになります。
とはいえ、デイサービスでは時間が限られていたりスタッフの人数や環境的に過剰介護や過剰介助を完全に防ぐということは難しいかもしれません。
ですが、過剰介護や過剰介助という知識をデイサービスのスタッフ間で共有しておくだけでも過剰介護や過剰介助の防止につながります。
過剰介護や過剰介助を知っておくことでご利用者の意欲低下、廃用症候群を防止していきましょう。
デイサービスではどこまで介護(介助)すればいいの?
冒頭でもお伝えしましたがデイサービスで10年以上も働いていると、職員からよく次のような質問をされます。
「ご利用者に対して、どこまでお手伝い(介助)するといいですか?」
この質問に対しての答えは凄く難しいなぁといつも感じますが、、私はいつも必ず次のように返事をしています。
「ご利用者をよく観察してみて下さい」(かなりひねくれた答えですよね。。。)
つまりどういうことかというと、お手伝い(介助)が必要な度合いはご利用者ごとに違うということです。
自分に置き換えてみるととても分かりやすいと思うのですが、自分一人でもできる仕事なのに「大丈夫?手伝おうか?」と手伝われたらどう思いますか?
私の場合は嬉しい気持ちがある反面、できることを奪われて達成感は半減してしまいます。
もう少し介護現場に近づけた例えを出してみると、歩くことができるあなたに対して「歩くのが大変でしょうから車いすに乗ってください」と言ってくる人はいないですよね?
かなり極端な例かもしれませんが、デイサービスなどの介護現場では『歩けるあなたに誰かが車いすを持ってくる』ような過剰介護や過剰介助が起きているのも事実です。
デイサービスのご利用者であっても、私たちが対面するのは私たちと同じ『人』です。
できることまで奪わないように、ご利用者のことを知ったり周りの職員と情報を共有するようにしましょう。
今回のブログテーマでもありますが、最も大事なことはできることまで過剰に介護や介助をしないということです。
次の項目で詳しく解説していきますが、過剰介護や過剰介助はご利用者から3つのものを奪ってしまうことにもなります。
デイサービスでの過剰介護や過剰介助がご利用者から奪う3つのもの
ではデイサービスでの過剰介護や過剰介助はなぜ、防止したほうがいいのでしょうか?
それはデイサービスでの過剰介護や過剰介助はご利用者から次の3つのものを奪うことになるからです。
過剰介護や過剰介助がご利用者から奪う3つのもの
- 自由
- できること
- 尊厳
過剰介護や過剰介助を繰り返すことは、デイサービスのご利用者から自由、できること、尊厳の3つを奪い生活の質の低下にもつながります。
親切のつもりで目先のことをなんでもかんでもお手伝いをすることが、実はご利用者の機能低下や意欲低下を助長してしまっているのだという意識を持つようにしましょう。
デイサービスに来られるご利用者の生活の主体は、あくまでも自宅等です。
デイサービスで職員がどのように関わったら自宅での生活を今後も続けていけるかという部分も考えながら関わっていく必要があります。。
では詳しく解説していきます。
自由
デイサービスの職員がご利用者に対してなんでもかんでもお手伝いをすることは、ご利用者から自由を奪うことになります。
ご利用者が何かをしようとしている時に「私がお手伝いしますよ」とことあるごとに言っていたらご利用者徐々に次のような気持ちを持つようになっていきます。
「ここのデイサービスは何かしようとするたびに職員が入ってきて、私は何か悪いことをしているのかしら?」
「動くと職員に声をかけられちゃうからジッとしておこう」
デイサービスで過剰介護や過剰介助が蓄積していくと、だんだんとご利用者の自発的な意欲を奪い自由に動くことを制限することにつながります。
介護保険の基本理念である利用者本位という部分が失われて行くことにもなりますよね。過剰介護や過剰介助を行うことは職員本位だともいえるでしょう。
自由に行動をするということは、人が生きていくうえで当たり前のことです。その自由を奪わないように、時には見守ってみるという考えを持つことも重要です。
できること
デイサービスでの過剰介護、過剰介助がご利用者から奪う2つ目は『できること』です。
記事の中でも何度か触れてきましたが、ご利用者が自身でできることまでお手伝いをしてしまうとできていたはずのことが少しずつ出来なくなっていきます。
例えばデイサービス職員の中でも、パソコンやスマホで文章を作ることが多い人は、たまに手書きで文字を書くと「あれ?あの漢字ってどう書くんだっけ?」と思うようなことはありませんか?
私も文章はほとんどパソコンやスマホで作りますので、久しぶりに手書きで文字を書くと漢字を思い出せない時があります。
それと同じように何かに頼りすぎてしまうと、できていたはずのことができなくなることがあるのです。
過剰介護や過剰介助も、デイサービスの職員がご利用者のできることまでお手伝いをし過ぎてしまうとご利用者はできていたはずのことがだんだんと出来なくなっていきますよね。
介護の量や介助の量はご利用者によって変わります。同じ介護度でも人によって必要な介助は変わります。
全てのご利用者に同じように介護や介助を行うのではなく、できることやできないことを見極めたうえで必要な介護や介助を行うようにしましょう。
ご利用者の生活の主体の場となるのはあくまでも自宅(サ高住等も含む)です。できることが少なくなっていくと、在宅生活をすることがどんどん難しくなっていきます。
これも介護保険の基本理念である、在宅介護や介護予防の重視という部分に反することになっていきます。
尊厳
『ご利用者の尊厳を奪う』と聞くと、身体拘束や虐待などを思い浮かべる方も多いかもしれません。
ですが過剰介護や過剰介助もご利用者の『尊厳』を奪ってしまう行為の一つです。
デイサービスの職員が、ことあるごとにお手伝いをすることでご利用者は「あぁ、私はこんなことも人の手を借りなくちゃいけなくなったのか・・・」という気持ちを抱きます。
過剰介護や過剰介助を繰り返し行なうと、ご利用者にネガティブな感情を抱かせ意欲低下を促進させることになります。
尊厳を守るということを考え始めると少し難しい話のように聞こえるかもしれません。
ですが、そこまで難しく考える必要はありません。デイサービスのご利用者も我々と同じように自由に行動する権利があります。
過剰介護や過剰介助が起きる原因は様々あると思いますが、過剰に関わってしまうことはご利用者の権利を奪い、尊厳を奪っていることにつながっていることを理解しておきましょう。
デイサービスでやりがちな5つの過剰介護や過剰介助
デイサービスにおける過剰介護や過剰介助は虐待や身体拘束とは違い、ご利用者に悪意を持って行なっているということは少ないと思います。
それがゆえに、知らず知らずのうちに過剰介護や過剰介助を行なっている可能性があります。
デイサービスでの過剰介護や過剰介助は先ほど解説したようにご利用者から、『自由、できること、尊厳』を奪ってしまいます。
知らず知らずのうちに過剰介護や過剰介助を行わないように、デイサービスでやってしまいがちな5つの過剰介護や過剰介助を紹介していきます。
- ご自分で靴や靴下を履ける方に対して職員が手伝う
- 手の届きづらそうな部分の洗身、洗髪を手伝う
- 集団体操は座って行なうように声掛けする
- テッシュなどのゴミを職員が捨てたり、ごみ箱を持ってくる
- ご自身で歩ける方や立ち上がりができる方に接触介助をする
これらのことは、先ほどデイサービスではどこまで介助すればいいの?の項目でも少し触れましたが、歩けるあなたに対して車いすを持ってくる現象と一緒です。
親切心からの行動かもしれませんが、デイサービスで働く職員は介護のプロとしての意識を持つことが大事です。
道端で困っている高齢者を助けることと、デイサービスで介護業務を行なうことは別物だと切り離して考えるようにしましょう。
過剰介護や過剰介助を繰り返し行なえば、ご利用者から感謝されご利用者からの好感度は上がるかもしれません。
ですが、ご利用者ができることをどんどん奪っている行為なのだという意識は常に持っておいてください。
デイサービスで過剰介護や過剰介助が起きる5つの原因
では、デイサービスでの過剰介護や過剰介助は何故起きてしまうのでしょうか?
デイサービスで過剰介護や過剰介助が起きる原因は5つあると考えています。
- お手伝いをすることが正義のような風潮がある
- 事故などのリスクを回避したい
- ご利用者のできることとできないことの把握ができていない
- 先輩職員がやっているから自分もやらなきゃと思う
- 時間が足りないから手を出してしまう
この中の1つが原因で起きるということではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って過剰介護や過剰介助が起きている場合もあります。
自分のデイサービスに当てはまる原因がどれなのか、知っておくことで対策もしやすくなっていきます。
デイサービスの管理者やリーダーになっている人は、しっかりと原因を分析したうえで職員に伝え、対策を取っていくようにしましょう。
お手伝いをすることが正義のような風潮がある
デイサービスの中で、なんでもかんでもお手伝いをすることが正義のような風潮があることは過剰介護を生む原因になります。
周りがやっているから、自分もやらなくちゃいけないというような職場環境でしょうね。
なんでもかんでもお手伝いすることが正義のような風潮になってしまうことにもまたいくつかの原因があります。
- お手伝いをすることで仕事をしている感覚になる
- ご利用者の近くで見守りをしていることがサボっていると思われる
- サービス業のような感覚がある
ご利用者の介助をすることが当たり前の雰囲気になっていると、近くで見守りをしている職員がサボっていると思われるようになります。
デイサービスの中で介助を行うとご利用者から「ありがとう」や「いつも手伝ってもらって助かる」など感謝の言葉を頂くことがあります。
感謝の言葉を頂くと次も手伝わなくちゃいけない、次も感謝されたいという気持ちが生まれ、段々とお手伝いをすることが当たり前のような環境になっていきます。
日本では「お年寄りには優しくしなさい」と小さい頃から刷り込まれる風習がありますのでお手伝いをしたくなる気持ちは分かります。
ですが、やはりデイサービスで働く職員は介護の素人ではなく玄人なのです。
高齢者にとっての本当の優しさが何なのかを、その瞬間を切り取って考えるのではなくその方の人生という長期に渡って考えていく必要がありますよね。
事故などのリスクを回避したい
デイサービスの中では転倒や転落、誤飲、ご利用者同士のトラブルなど様々な事故が起きるリスクを抱えています。
介護事故が起きないように安全を優先するあまり、ご利用者への関わり方が過剰になる事もデイサービスでの過剰介護や過剰介助の原因となります。
もちろん、事故が起きないように安全に配慮することが悪い事と言っているわけではありません。
安全への配慮と過剰介護防止は難しい塩梅ですよね。。
事故が起きた時に再発防止をしたり、ヒヤリハット事例が起きた時に防止策を取ることはデイサービスの責任として必要なことですからね。
ですが、デイサービスのご利用者の中には何らかの事故が起きる可能性の高い方と、低い方がいると思います。
何らかの事故が起きるリスクの高い方にはそれなりに関わりを持つ必要があります。
ですが、全てのご利用者に対してリスクの高い方と同じような関わりを基準にしないようにしましょう。
ご利用者のできることとできないことの把握ができていない
デイサービス職員のスキルの問題として、ご利用者のできることとできないことの把握ができていないことも過剰介護(介助)の原因です。
デイサービスご利用者のアセスメントや情報の共有ができていないともいえるでしょう。
そもそもご利用者1人1人のできることやできないことなどを把握していないと、自分たちがどこまで介護や介助を行ったらいいのか分かりませんよね?
どこまで関わったらいいか分からない状態の介護現場では「とりあえず自分たちが気づいたことは手伝ったほうがいい」という意識が働きます。
その結果、ご利用者のできることまでお手伝いするような過剰介護や過剰介助が発生してしまいます。
アセスメント不足や情報の共有不足はデイサービス職員としてのスキル不足と言わざるを得ません。デイサービスで働く人たちの意識次第ですぐに変えられる部分でもあります。
もしここが原因で過剰介護や過剰介助になっているのだとしたら、すぐに現場環境を変えられるように努力したほうがいいでしょう。
喜ばれるから
自分がお手伝いすると、ご利用者が喜んでくれるからとついつい過剰介護や過剰介助になっているケースもあります。
特に相性がいいと感じるご利用者や関係性が良好だと感じているご利用者に対しては「私の時だけ特別だよ」などと声をかけ過剰介護や過剰介助につながるケースもあります。
ですが1回それをやってしまうと、次にまた同じことをしなければいけない関係性になっていきます。
デイサービスの中で、ご利用者に対して『できないことはできないと断ることのできない関係性』は不健全な状態と言えるでしょう。
デイサービスはあくまでもフォーマルサービスとして、決められた制度の中で目的を持って提供する介護サービスです。
喜ぶことをなんでもやってあげたいという気持ちは痛いほどわかります。それでもご利用者が何のためにデイサービスを利用されているかを理解しておかなければいけません。
喜んでいただくにしても活動を通して喜んでいただいたり、達成感を味わったことで喜んでいただけるように工夫をしていきましょう。
時間や職員が足りないから手を出してしまう
デイサービスに限らずかもしれませんが、やることが多くて時間が足りなかったり、人手不足が起きていることも過剰介護や過剰介助の原因となります。
次にやらなければいけないことが迫っていると、早く終わさなくちゃいけないという気持ちが働きます。そうすると、ご利用者が本来できることまで介助をしてしまうというケースが発生します。
同じように人手不足も「○○さんの対応を早く終わさないと転倒の心配がある□□さんが動き出してしまう。自分以外は対応できる職員がいない・・・」と焦る気持ちが出てきます。
時間や人手不足は、○○さんが時間をかければ自身でできることも、職員が過剰介助を行わなければいけなくなりますよね。
デイサービスで働く方の中には過剰介護や過剰介助が良くないと分かりつつも、時間や人手が足りずにやむなく過剰介護や過剰介助になっている方も多いのではないでしょうか?
ここに関しては、なかなかすぐに解決することは難しいかもしれません。
ですがあくまでも、利用者本位であり自立支援の場であることは分かっておく必要があります。
ここまで、デイサービスでの過剰介護や過剰介助が起きる原因を解説してきました。
では、デイサービスでの過剰介護や過剰介助を防ぐにはどうしていくといいでしょうか?次の項目で解説していきます。
デイサービスで過剰介護や過剰介助を予防する5つの対策
では、デイサービスで過剰介護や過剰介助を予防するにはどうすればいいか解説していきます。
デイサービスでの過剰介護や過剰介助を予防する5つの対策を紹介していきます。
- ご利用者の情報収集と情報共有を行う
- 研修を行う
- 余計な業務を削ったり、効率化を行う
- 社会資源の情報を知っておく
- デイサービスとはどんな場なのかをご利用者に事前に説明しておく
デイサービスで過剰介護や過剰介助が発生する原因がわかってきたら、次は対策に取り組んでいくようにしましょう。
では5つの対策を詳しく解説していきます。
ご利用者の情報収集と情報共有を行う
デイサービスで過剰介護や過剰介助を予防するには、ご利用者1人1人の情報収集と情報共有を丁寧に行うことが必須です。
ご利用者に関する情報収集はアセスメントと言われたりもします。
できることやできないことを把握しておくことも必要ですが、それ以外にも次のようなことを情報収集しておくと過剰介護や過剰介助の防止になるでしょう。
- ADLやIADL
- どのような目的や目標でデイサービスを利用されるのか
- どのような人生背景があるのか
- ご利用者の関わりのある人的、物的、社会資源などの環境
当該ご利用者がどんな環境で生活をされてきたのかやどんな経緯でデイサービスを利用されることになったのかを知っておくようにしましょう。
そうすることでデイサービスでの過剰介護や過剰介助の防止になるだけでなく、ご本人が興味を持つことのできる活動を提案できる可能性にもつながります。
それが生活の楽しみや意欲の促進につながり、ご本人自身もどんどんできることは自分でやりたいと思えるようになっていくケースもあります。
言わずもがなですが、収集した情報は一部の職員だけがわかっていればいい訳ではなくケアに関わる全ての職員で情報共有しておくようにしましょう。
情報共有の方法の1つにはデイサービスの個別援助計画書があります。計画書の内容を根拠にしながらご利用者ごとの適切な介護や介助を行うことも情報共有の有効な手段です。
研修を行う
デイサービスで過剰介護や過剰介助を予防するには、研修を行うことも有効です。
特にデイサービスでの研修テーマに関しては、何をやったらいいのかと悩む方もいると思います。
過剰介護や過剰介助の防止に関する研修は職員の勉強にもなりますし、研修がマンネリ化している場合には刺激のある研修になると思います。
過剰介護や過剰介助の防止に関する研修では主に次のようなことを研修内容に盛り込むといいでしょう。
- 過剰介護や過剰介助とはどんなことを指すのか
- 過剰介護や過剰介助が生む弊害
- なぜ過剰介護や過剰介助が起きるのか
- 自分でできることをお願いされた場合の対応
- 統一ケアに関して
自分が勤めているデイサービスで過剰介護や過剰介助が課題になっているのであれば、デイサービスの現状に合わせて内容を変えていくようにしましょう。
ケース検討としてそれぞれのデイサービス独自で対応の仕方が職員によってばらばらになっていることなどを盛り込んで行くと職員もイメージがしやすい研修になります。
統一ケアに関しても、過剰介護や過剰介助を防止するうえでは重要な研修になります。
ちなみに統一ケアに関しては以下の記事でも解説していますのでぜひご覧ください。
-
参考デイサービスでの統一ケアとは?
7枚の画像から理解する統一ケア続きを見る
余計な業務を削ったり、効率化を行う
デイサービスで働く人の中には、何のためにこの業務が必要なのか分からないままその業務をやっている人もいるのではないでしょうか?
理由が分からないまま行なっている業務は、もしかすると以前何かの拍子で取り入れたけども今は必要のない業務かもしれません。
このような不要な業務を削ったり、効率化を求めていくことでデイサービスの介護現場に少し余裕ができて、ご利用者への関わり方を変えられる可能性があります。
特に人手不足や時間不足に悩んでいるデイサービスは余計な業務の削減や業務の効率化には早急に取り組むべきです。
具体的に取り組む内容は、それぞれのデイサービスで違うと思います。
- 職員が「これって意味あるのかな?」と思っているような業務
- 「こうしたらもっと早くなるのに」と思っているような業務
上記のような業務は削減したり、効率化できるように取り組んでみるといいです。(ご利用者の安全面への配慮も注意してくださいね)
人手不足は今すぐに解消することは難しいと思いますので、まずは業務へのテコ入れを実現してみましょう。
社会資源の情報を知っておく
社会資源の情報を知っておくこともデイサービスでの過剰介護や過剰介助防止対策の1つになります。
社会資源と聞くと難しいことを言っているように感じるかもしれませんが、そこまで難しいものではありません。
社会資源は、ご利用者のニーズを満たすための物、情報、制度、法律、施設、機関などの総称です。
例えばご利用者にとっては、デイサービスも社会資源の一つということになります。物で言うと電動ベッドや手すりなども社会資源になります。
近所の人が社会資源にもなり得ますし、道路や信号だって社会資源ですね。世の中にある、ありとあらゆるものが社会資源になり得ると考えて頂いて大丈夫です。
先ほど、デイサービスでの過剰介護や過剰介助って何?の項目でペットボトルのキャップの例を出しました。そもそもキャップオープナーという社会資源を知っていないと提案ができないですよね。
キャップオープナーという社会資源情報を知らないから「私が開けてあげますよ」と過剰介護や過剰介助の対応になってしまうということです。
でも、デイサービスの職員がご利用者の自宅での生活まで保障できるわけではないですよね?
ということは職員はご利用者がどんなことに困っているのかを察知して、提案できる情報を事前に持っておかなければいけないということです。
情報を持っていないからその場限りの対応になったり、できることまで奪ってしまうことになるのです。
社会資源に関する情報を持ってさえいれば、その人がその人らしく生活を続けられるための情報の提案ができるのです。
ご利用者にその場限りで喜ばれるのではなく「あなたのおかげで毎日の生活が楽しくなったわ」ともっと人生というスパンで喜ばれる提案ができるようにしましょう。
デイサービスとはどんな場なのか事前にご利用者に説明する
デイサービスをご利用されるご本人や、ご家族がデイサービスに関して意外と勘違いしているケースがあります。
それは『デイサービスに行けばなんでもやってもらえる』という勘違いです。
なんでもやってもらえると思ったままデイサービスの利用を開始してしまうと次のような苦情につながる場合があります。
- 歩く時になぜ支えてくれないんだ
- トイレの中まで見守りをするのは介護施設として当然だろう
- 食事はなぜ職員が食べさせてくれないんだ
このような苦情が起きると、苦情を起こさないようにするために、過剰介護や過剰介助になってしまう場合もあります。
ご利用者やご家族には事前に「デイサービスは自立支援の場です」ということをかみ砕いて説明をして理解を得ておくようにしましょう。
そうすることで職員全体がご利用者への対応もしやすくなり、過剰介護や過剰介助を防止することにつながります。
実際に契約などではご自宅等にお邪魔すると次のような場面に出くわすことがあります。
ご家族がご利用者に対して「デイサービスに行くと、お風呂もトイレもなんでも手伝ってもらえるから行ってみて」と説明している場面です。
デイサービスに行ってもらうために嘘も方便として言っているケースもありますが、本気でなんでもやってもらえると思っている方も中にはいますので注意が必要です。
重要事項説明書の中の事業の目的を強調して読み上げたり、改めてデイサービスでできることできないことの説明をしておくようにしましょう。
デイサービスの職員は日々葛藤の中で介護業務を行なっている
ここまでは、デイサービスでの過剰介護や過剰介助について解説をしてきました。
過剰介護や過剰介助にはいくつかの弊害があるので、防止していった方がいいですよという内容を解説してきました。
ですが、実際のデイサービスの現場では過剰介護や過剰介助のボーダーラインが曖昧になっていたり様々な事情があり完全に防止することは難しいと思います。
記事の中でも触れてきましたが、過剰介護や過剰介助をしないほうがいいのは分かっていても幾つかの要因との葛藤を抱えている職員も多いと思います。
- 時間との葛藤
- 安全との葛藤
- いくつかの選択肢の中での葛藤
- ご利用者の思いとの葛藤
これらの葛藤の中でやむなく過剰介護や過剰介助になっているケースも多いでしょう。
事例
例えば、ご利用者A様に1時間の中で、入浴と楽しみにしている活動を行なう時間があります。
自立支援の観点から言うと、入浴動作のできる部分をA様自身で行なっていいただいたほうがいいけれど、そうすると楽しみにしている活動にかけられる時間が少なくなる。
逆に、入浴動作のできる部分まで職員が介助すると、楽しみにしている活動の時間は取れるけれども、A様のできることを奪ってします。
ですが、デイサービスは制度の中で作られた目的のある介護サービスです。この記事を読んでいただいた方はもう一度自分たちのデイサービスが何のために存在しているのかを考えてみる機会にしてみてください。
葛藤を抱えている方は全てを変えることはできなくても、ご利用者の人生を考えて少しずつ変えていくことはきっとできるはずです。
葛藤の中で環境をそのままにするのではなく、葛藤を共有して過剰介護や過剰介助を防止していきましょう。
まとめ
今回はデイサービスでの過剰介護や過剰介助について原因や対策などついてお伝えしてきました。
デイサービスでの過剰介護や過剰介助とは、ご利用者のできることまでお手伝いをしたり、できないと決めつけて過剰にお手伝いをすることなどを指しています。
デイサービスでの過剰介護や過剰介助は、ご利用者からできること、自由、尊厳を奪ってしまいます。それが意欲や生活の質の低下につながることになります。
デイサービスで過剰介護や過剰介助が起きる原因と対策を5つずつ解説してきました。
過剰介護や過剰介助が起きる5つの原因
- 手伝うことが当たり前という環境
- リスク回避
- アセスメント不足
- 喜ばれるから
- 人手と時間不足
過剰介護や過剰介助を予防する対策
- ご利用者の情報収集と情報共有を行う
- 研修を行う
- 余計な業務を削ったり、効率化を行う
- 社会資源の情報を知っておく
- デイサービスとはどんな場なのかをご利用者に事前に説明しておく
デイサービスでの過剰介護や過剰介助が起こる原因を知っておくことで対策もしやすくなります。
自分たちのデイサービスで過剰介護や過剰介助が起きていると感じる場合には、まずは何故過剰介護や過剰介助が起きているのか原因を探るところから始めてみましょう。
デイサービスの職員の中には、日々葛藤を抱えながら介護業務を行なっている方もいると思います。
介護業務を行なっていて悩むこともあると思いますが、過剰介護や過剰介助をそのままにしておくことは避けましょう。
他の職員と情報共有したり対策としてできることは行なうことをオススメします。
職員の為のデイサービスではなく、ご利用者のためのデイサービスだということを再認識して過剰介護や過剰介助を防止していきましょう!