デイサービスは一日を通して、ご利用者とともに過ごすことが多い介護現場です。
そのため、職員の関り方がご利用者やご家族の満足度や安心感、信頼感などに大きな影響を与えます。
特に最近では、デイサービスも含めた介護現場における接遇マナーも重要視されるようになっています。
ですがいざデイサービスで接遇マナー向上に取り組もうとしても、ノウハウが無い、触れる機会が極端に少ないなどなかなか一筋縄ではいかないものですよね。
私はデイサービス管理者経験の中で、接遇マナーの向上にも取り組んできました。
最初は、接遇マナー向上の方法も分からずに四苦八苦しながら取り組みました。ですが、繰り返し接遇マナーの向上に取り組んでいるうちに次のようなことがわかるようになりました。
- 接遇マナーの重要性
- 接遇マナー向上が生む利点
- 接遇マナー向上の方法
今回の記事を読んでいただくことで、デイサービスの接遇マナー向上の方法、接遇マナーが向上することで生まれる利点などがわかるようになります。
接遇マナー5原則やデイサービスの接遇マナーでのNG行動や、あだ名やちゃん付けで呼ぶのは有りかどうかにも触れています。
デイサービスの接遇マナー向上の方法に悩む管理者やリーダーの方は是非ご覧ください。
デイサービスにおける接遇とは?
都道府県運営適正化委員会事業の『苦情受付・解決の状況』によると、職員の接遇に関する相談苦情の割合として次のデータがあります。
- 平成29年度 40.0%
- 平成30年度 42.4%
- 平成31年度(令和元年度) 41.3%
- 令和2年度 38.6%
どの年度においても相談苦情の種類の中では、職員の接遇に関する相談苦情の割合が最も大きくなっています。
高齢者分野だけでなく、障害・児童・その他も含めたデータですが、どの分野でも職員の接遇が重要視されていることがわかりますよね。
ですが、そもそも接遇とはどういった意味の言葉で、接遇を良くしていくにはどのような行動をしていくといいのでしょうか?
接遇=接客+おもてなし
『接遇』と似ている言葉で『接客』があります。この2つの言葉に関して簡単に紹介します。
- 接客=お客様に接すること、応対すること
- 接遇=お客様をもてなしながら接客すること
イメージとしては『接客+おもてなし』が接遇になります。
ただ単純に接客をするだけではなく、相手が何を求めているかなとか、どんな対応なら嬉しいかなと考えて実際にそれを行動に移すことが接遇になります。
先ほどのデータにもあるようにデイサービスも含め介護の現場でも職員の接遇は重要視されるようになっています。
接遇マナー5原則(後ほど説明します)という言葉もあるくらいですので、接遇は世間一般にも浸透しているものと考えていいでしょう。
デイサービスにおいても、この接遇マナー5原則がどれだけ丁寧に行われているかがデイサービスの評価に直接つながるといっても過言ではありません。
デイサービスでも大事な接遇マナーですが、接遇マナーの向上を目指すにはどんなことから始めていくといいのでしょうか?
接遇マナー向上の第一歩は、自分なら何が嬉しいか実感する
デイサービスで接遇マナーの向上を目指す第一歩は、自分だったら何が嬉しいかを実感するということです。
接遇マナーは私たちの生活にも密接していますよね。
例えば、私がよく行くコンビニには次のような2人の店員がいます。お会計を済ませた後の場面で店員のAさんとBさんはそれぞれ次のような挨拶をします。
Aさん:ありがとうございました!またお越しくださいませ!
Bさん:いつもありがとうございます!またお越しくださいませ!
皆さんだったらどちらの対応が嬉しいでしょうか??恐らくBさんの対応と答える方が多いとおもいます。
「いつも」というたった3文字が追加されただけで、受け取る側は「あっ、いつも自分がこのコンビニに来てくれていることを知ってくれてるんだ」と嬉しい気持ちになります。
私はこのように自分の私生活で嬉しかった出来事は、デイサービスのご利用者との関わりに取り入れるようにしています。
例えば、髪を切ってきたご利用者がいた場合には「おはようございます!髪切ってきましたね」とか「あれ、若くなりました?」とか挨拶にプラスαを入れています。
あなたのことを見ていますよというアピールですが、その言葉をかけた瞬間にご利用者の表情が明るくなった時には私も嬉しくなりますね。
接遇マナー向上の第一歩は、生活の中に転がっている出来事から自分なら何が嬉しいかを実感して、それを相手にも届けることです。
それを繰り返し行っていくことで、接遇マナーにとって良いことと悪いことの取捨選択をできるようにしていきましょう。
デイサービスの接遇マナーを向上させるには
デイサービスでの接遇マナーを向上させることで得られる利点をここまで説明してきました。
ですが「接遇マナーが大事なのはわかっているけど、職員になかなか浸透していかない」と悩む管理者やリーダーも多いのではないでしょうか?
確かに、接遇マナーをデイサービス全体に浸透させていくのはそう簡単ではありません。
私の基本的な考え方として、接遇マナーは1日2日で身に着くものではないと思っています。
毎日毎日接遇マナーを意識して継続して、当たり前の行動になった時に接遇マナーが身に着いたと言えるかもしれません。
では接遇マナーを身に着けるためにはどんなことをしていくといいでしょうか?
私が実際にデイサービスで行なっている接遇マナー向上の方法は次の3つです。
- デイサービス全体に意識づけをする
- 接遇マナー5原則をコツコツとやる
- 研修会を開催する、参加する
接遇マナーを意識して、実行して、確認してもう一回意識するという繰り返しのイメージです。
では詳しく解説していきます。
デイサービス全体に意識づけをする
デイサービスの接遇マナーを向上させるために最初に取り組むことはデイサービス全体への意識づけです。
接遇マナーは特定の職員だけができていればいいというものではありません。
サービスの質のバラつきを無くすためにもデイサービス全体で取り組んでいく必要があります。
まずは「接遇マナーを向上させていきますよ」ということをデイサービス全体に意識づけをしていきましょう。
接遇マナーの向上をデイサービス全体に意識づける具体的な方法は次の通りです。
- 朝礼や夕礼で管理者やリーダーが繰り返し発信する
- 管理者やリーダーが率先して実行する
- 接遇マナー向上のスケジュールなどの計画を立てる
デイサービス全体で接遇マナーの向上に取り組む時に難しいのはモチベーションを保つことだと思っています。
接遇マナーを向上させたところで、その結果が数字として目に見えるのはまだ先のことです。
すぐに結果が出ないし、結果が出る保証がない事を続けるのはモチベーションの維持が大変ですよね。
ですので管理者やリーダーは積極的に次のようなことを発信していきましょう。
- 「ご利用者A様が職員○○さんのことを褒めていたよ」
- 「ご家族からこんな感謝の声があったよ」
このような褒められたり感謝の言葉は、結果としてすぐに分かりやすくモチベーションを維持することにもつながります。
接遇マナーの取り組みは意識づけから始めて、継続していくことで当たり前の行動として身に着いていくことになります。
またデイサービス全体で接遇マナーの向上に取り組むことは、職員同士で声をかけあいながら切磋琢磨することにもつながって相乗効果も生まれるでしょう。
接遇マナー5原則をコツコツとやる
接遇マナーを向上させるための2つ目の方法が接遇マナー5原則をコツコツとやるです。
接遇マナー5原則は先ほどお伝えした通り次の5つです。
- 挨拶
- 身だしなみ
- 言葉遣い
- 表情
- 態度
デイサービス全体に意識づけをしたうえでという前提がありますがこの5原則を毎日コツコツと繰り返します。
接遇マナーは1日2日で身に着くものではありませんし、ゴールが決まっているものでも在りません。
大きな声で挨拶をして、身だしなみを整え、丁寧な言葉遣いをして、明るい表情で、ご利用者と向き合って話を聞く。
これを毎日毎日繰り返して、当たり前の行動になることが接遇マナーが身に着いたといえるかもしれません。
接遇マナー5原則をコツコツやる時のポイントは、自分の気分や機嫌に左右されずにできるかどうかです。
自分の気分が落ち込みがちだったり、機嫌が悪い時にはどうしても接遇マナーに悪い影響が出てしまいがちです。
接遇マナーはできる時とできない時があるのではなくて常にできなければいけません。
たった1回悪い態度を取っただけで、ご利用者やご家族から「あの人は態度が良くない人だ」とレッテルをはられる可能性がありますからね。
ですので、自分の気分や機嫌に左右されずに自分自身に打ち勝って接遇マナー5原則をコツコツと繰り返していくようにしましょう。
研修会を開催する、参加する
接遇マナーの研修を開催したり、研修に参加することには2つの意味があります。
- 正しい接遇マナーを確認する
- 再度接遇マナーを意識する
1つ目ですが、正しい接遇マナーを確認するということです。
研修を開催したり参加することで、自分たちがやっていることが正しいと自信をつけることができます。
他にも研修会では新たな発見があったりもしますので、スキルアップの機会にもなることは言わずもがなです。
2つ目は、再度接遇マナーを意識する効果があります。
デイサービスで接遇マナーを向上させるためには、意識づけが必要ですよということは先ほどお伝えした通りです。
ですが、デイサービスには様々な業務がある中で接遇マナーを常に忘れずに意識していくということはなかなか難しいことですよね。
ですので、定期的に意識づけをする機会を設ける必要があります。
その定期的な意識づけの方法として、研修会を開催したり、外部研修に参加するというのが有効です。
3ヶ月に1回とか半年に1回程度、研修で接遇マナーに触れる機会を持つことで定期的に意識づけができるようになります。
研修の内容も重要なのですが、研修会を行ったり参加するということの方が重要ですね。
時間経過とともに、接遇マナーに対する意識は薄れていきます。
やったりやらなかったりする接遇マナーでは意味がないので、常に意識をしておけるように研修会への参加の機会を持つようにしましょう。
接遇マナー5原則を知っておきましょう
ここまで接遇マナーという言葉を繰り返し使ってきましたが、接遇マナーとは具体的に何を指すのでしょうか?
接遇マナーという場合には基本的に『接遇マナー5原則』と呼ばれるものを言っていると考えていいでしょう。
接遇マナー5原則とは次の5つのことを指しています
- 挨拶
- 身だしなみ
- 言葉遣い
- 表情
- 態度(聞き方、話し方など)
接遇マナーはこの中のどれかができていればいいわけではありません。
全てが一定レベル以上で安定してできていることで、ご利用者やご家族、関係者などからいい評価を得られるでしょう。
合格や不合格の基準があるわけではないので、デイサービスごとに最低限ここまではやりましょうというマニュアルのようなものがあるといいかもしれません。
今回の記事では接遇マナー5原則の最低限の基準になるようなことを書いていますので、是非参考にしてみてください。
挨拶
挨拶は、一日の始まりと一日の終わりに欠かせないものです。
デイサービスのご利用者やご家族に「気持ちのいいデイサービスだなぁ」と思ってもらうには接遇マナーの挨拶は欠かせません。
職員同士はもちろんのこと、ご利用者やご家族に挨拶をする時の3つのポイントを紹介します。
- 明るく元気な声で
- 相手の目を見て
- 相手よりも先に
やろうと思えば誰にでもできますよね?
以前に他のデイサービスから私のデイサービスに移ってきたご利用者がいました。
前のデイサービスを辞めた理由を伺ったところ「職員に元気がなくて、元気をもらいたいのにかえって元気を吸い取られるから」と答えた方がいました。
実際にそういう風に言葉にしてくださる方は少ないかもしれません。
ですが、デイサービスをご利用される方は「元気になりたい」とか「職員から元気をもらいたい」と心の中では思っている方が多いように感じています。
特に挨拶は一日の始まりと一日の終わりです。ご利用者の印象にも残りやすい部分です。
明るく元気な声で、相手の目を見て、相手よりも先に挨拶をするように心掛けましょう。
身だしなみ
身だしなみで一番重要なのは清潔感です。身だしなみは見た目に関する情報でもあります。
視覚情報が相手に与える影響に関してはメラビアンの法則が有名だと思います。
メラビアンの法則では人とコミュニケーションを取る時に言語・聴覚・視覚の3つの情報から相手を判断しているといっています。
そしてこの3つがそれぞれどのくらい影響を与えるかをパーセンテージ化すると次のようになるとしています。
- 言語=7%
- 聴覚=38%
- 視覚=55%
相手を知る時に半分以上が視覚情報から判断しているということです。
この後に紹介する表情や態度も視覚情報に含まれますが、身だしなみも相手を知るうえで重要な要素になっています。
介護職員らしい身だしなみと言っても、今は少しずつ常識が変わりつつあるように感じています。
髪の色、ひげ、もしかしたらネイルも有りにしているデイサービスも出てきているでしょうか。それも個性の1つなので特に私も否定はしません。
それでも身だしなみに関して次のようなところは最低限、接遇マナーとして守ったほうがいいでしょう。
- 髪の毛は毎日洗う
- 長髪は後ろで束ねて顔を見せる
- 爪は短く切っておく
- 服にシミやシワがない
- 香水や整髪料の香りは強すぎない
- 派手なアクセサリーはつけない(ご利用者を傷つける恐れのあるものも)
こういった部分を守ることでご利用者やご家族に清潔感のある印象だけでなく、信頼感も与えることができます。
デイサービスは特に一日を通してご利用者と関わりを持つことが多い介護現場です。
身だしなみが良くないデイサービスでは通いたくないと思われる原因にもなりますので気をつけましょう。
言葉遣い
言葉遣いはデイサービスでは特に気をつけたい項目です。
ご利用者は繰り返し繰り返しデイサービスを利用されますので、スタッフはご利用者にどうしても慣れ合いが出てしまいます。
親近感を持って関わりを持つことは決して悪い事ではないのですが、度を越えると接遇マナーとして悪い印象を与えてしまいます。
では、度を越えるとはどういうことを言うのでしょうか?
デイサービスでの言葉遣いの線引きは、管理者やリーダーが職員に伝える時に曖昧になりがちで難しい部分かもしれません。
ですので、思い切って「コレとコレは禁止ね」とハッキリ言いきってしまうことも必要です。
例えば次のことはデイサービスでの言葉遣いではハッキリと禁止にした方がいいでしょう。
- ため口
- スピーチロック(後ほども触れます)
スピーチロックに関しては身体拘束の一種でもありますので、問答無用で禁止ですね(こちらの記事をご覧ください)
ため口も周りから見ていて気持ちのいいものではないですよね。
ため口で話すことに関して「このため口は良いけど、これはダメ」と線引きをしていると正直言ってきりがないです。
基本的には敬語で話すこととしながら、地方によっては方言も織り交ぜながら会話をすることをオススメします。
後で説明する態度とも関連しますが、ご利用者によって話し方を変えることと、言葉遣いを変えることは別物だということを意識しておきましょう。
表情
表情は、コロナ禍では特に課題になりやすい接遇マナーかもしれません。
コロナ禍においてデイサービスでは、マスクを着けながら業務を行なっている人もまだまだ多いと思います。
マスクを着けている時には、口元が隠れるので表情や感情が読み取りづらくなります。
自分では笑っているつもりでも、相手真顔に感じてしまって余計な誤解を生む恐れもあります。
マスクを着けている時に気をつけるポイントは一つです。
目も笑うことです。
正直、マスクを着けていると口が隠れるので、口が笑っているのは見た目にはあまり意味がありません。
相手に「私は笑顔ですよ。」と伝えるためには目が笑っていないと伝わりませんね。
目を笑わせるためのポイントは目じりを下げることです。
目を細めながら目じりを下げることで相手にも自分の感情や表情が伝わりやすくなります。
態度
態度は、聞く(聴く)姿勢とも言われることがあります。
デイサービスではご利用者から様々な話を聞くことがありますよね。
- 生活に悩みを抱えている
- 昨日楽しいことがあった
- ちょっと耳寄りな話
話の内容は様々です。
話を聞く時に別の業務を行ないながら聞いたり、あなたの身体がご利用者側じゃない所に向いているとご利用者は話を聞いてもらえていないと感じてしまいます。
次のような態度は接遇マナー違反と思っていいでしょう。
- そっけない返事をする
- Aさんの話は熱心に聞くけどBさんの話は話半分に聞く
- 人によって態度を変える
- 話を聞く姿勢を作らない
態度の部分の接遇マナー違反も、一発でご利用者やご家族からの信頼を失うことになりますので気を付けましょう。
そうならないためにも話を聞く時にはご利用者と目線を合わせて、話を聞ける時間を確保したうえで接するように心がけましょう。
態度の中にはもう一つあなた自身の話し方も含まれます。明るく元気に話すことがいいことのように思われがちですが、デイサービスでは少し違います。
デイサービスでは低い声ではっきりと表情豊かに話すようにしましょう。
なぜ低い声?思うかもしれませんが、高齢者は高い声や早口が聞き取りづらいです。
明るく元気に話そうとすると、どうしても声が高くなって、早口になりがちです。
もちろんご利用者は、あなたが一生懸命に伝えようとしてくれていることは理解して下さいます。
ですがそれと同時に聞き取れないことに申し訳なさを感じてしまいます。
そうならないためにも、低い声で一言ずつをはっきりと話すようにしましょう。
低い声で話すと表情も暗くなりがちですので、話の内容に合わせて表情豊かに話すようにします。
接遇マナー向上は3つの利点からさらに相乗効果を生む
ここからは、接遇マナーの向上がデイサービスに与える3つの利点についてお伝えしていきます。
接遇マナー向上がデイサービスに与える3つの利点は次の通りです。
- ご利用者の尊厳を守ることができる
- ご利用者やご家族との信頼関係を築くことができる
- 選ばれるデイサービスになることができる
接遇マナーの向上はこの3つの利点を基盤にして、そこからさらにメリットが生まれていくという効果もあります。
複数の利点が絡み合って、相乗効果を生んでいくというイメージです。
では、3つの利点について詳しくお伝えしていきます。
ご利用者の尊厳を守ることができる
デイサービスで接遇マナーを向上させることは、ご利用者の尊厳を守ることにつながります。
『ご利用者の尊厳を守る』とは、その方の名誉や自尊心を傷つけないということです。
例えば、デイサービスのご利用者に対して「よくできたねー。偉いねー。」と子供に声をかけるように話すことは自尊心を傷つけることになります。
自尊心が傷ついたご利用者は悲しい気持ちになり、デイサービスに行くことを拒むようになるかもしれません。
せっかくデイサービスに通うようになったのに、職員のかかわり方でその機会が失われることは有ってはいけないことですよね。
自尊心を傷つけるというところでは、私自身が生活相談員になったばかりの時に失敗した経験があります。
失敗談
「雨が降った日に、自宅玄関から送迎車までの間に水たまりができるから」とご利用者が自ら考えて「ブロック塀の上にスロープを渡して橋のようにしてほしい」と言われました。
私はその場で「ブロック塀が不安定で危ないですし、準備に時間がかかるので辞めましょう。長靴があるので長靴で行きましょう」と言ったのです。
すると、その日の利用が終わった後にご利用者本人から苦情の電話が入りました。
ご利用者の言い分としては「私が考えたことに対して否定された。もうデイサービスには行きたくないというものでした。」
結果としては、謝罪に伺ってデイサービスの利用も継続することになりましたが、まさにご利用者の自尊心を傷つけた出来事ですよね。
この時にも別の声掛けができたと思います。例えば次のような声掛けです。
「水たまりを渡る方法を○○さんが考えたですか!私には思いつきませんでした。ですがブロック塀が不安定なので別な方法がないか一緒に考えてみましょうか?」
一度受容してから提案することで、結果は変わっていたかもしれませんよね。
この出来事も含めて裏を返せば、正しい接遇マナーが身に着いていればご利用者の尊厳が守られるということです。
正しい接遇マナーでご利用者の尊厳を守ることはそこからも様々な利点を生み出します。
- ご利用者が楽しみにデイサービスを利用できる
- ご利用者やご家族との信頼関係を築くことができる
- 外部からの信頼獲得につながる
正しい接遇マナーでご利用者の尊厳が守られているデイサービスは、安心して利用できるデイサービスです。
選ばれるデイサービスになるためにも、正しい接遇マナーでご利用者の尊厳を守れるデイサービス作りを目指しましょう。
ご利用者やご家族との信頼関係を築くことができる
1つ前の項目でも触れましたが、接遇マナーの向上はご利用者やご家族との信頼関係を築くことにつながります。
冒頭でも触れましたが『接遇=接客+おもてなし』です。
接客は淡々と業務をこなすのに対して、接遇にはおもてなしの心が入ってきます。
おもてなしの心を持つことで、職員はご利用者やご家族などの気持ちを汲み取るために「何を期待しているのかな?」と常に考えるようになります。
そして不安や課題を解消するために、積極的にコミュニケーションをとるようになります。
こういった常に相手の為に相手の為にという積み重ねが、信頼関係の構築をしていきます。
デイサービスにとって、ご利用者やご家族と信頼関係を築いておくことも様々なメリットが生まれます。
- ご利用者やご家族がデイサービスに意見を言いやすい(サービスの質の向上につながる)
- 口コミで良い評判が広がる
- トラブルが起きた時にも次のトラブルにつながりにくい
接遇マナーの向上に取り組んでいるデイサービスはご利用者やご家族との信頼関係の構築につながって様々なメリットを得ることができます。
選ばれるデイサービスになることができる
接遇マナーの向上に努めて、実際に適切な接遇マナーができているデイサービスはケアマネージャーなどから選ばれる事業所になります。
集客につながるということですね。
単純に2つのデイサービスから選ぶ時に、接遇マナーがいい事業所か接遇マナーが悪い事業所のどちらを選びますか?ということですよね。
その2つのどちらかから選ばなければいけないのであれば、接遇マナーが良い事業所を選ぶ方がほとんどだと思います。
選ばれたうえで、常に接遇マナーの向上に取り組むようなデイサービスはさらに口コミを呼んで集客につなげていくことができるようになります。
集客につながることで生まれるメリットがあります。
- デイサービスの収入が増えるので、職員に還元できる
- 職員の離職防止につながる
- 職員のモチベーションが上がり、さらなる接遇マナー向上が期待できる
ここで気をつけなければいけないのが、接遇マナー向上の目的をデイサービスの集客のためにしないことです。
集客のために接遇マナーの向上に取り組むと集客が思い通りに行った後に、接遇マナーをないがしろにすることになってしまいます。
あくまでも、接遇マナーの向上を行なった結果として集客につながるという考え方を持っておくようにしましょう。
ご利用者をあだ名や○○ちゃんで呼ぶのは有り?
今回の記事を書くにあたって私が書きたかったことの一つでもあります。
ご利用者をあだ名やちゃん付けで呼ぶのは有りか無しかは未だに議論されていることのように感じています。
私の個人的な意見ですが、ご利用者をあだ名や○○ちゃんと呼ぶのは絶対にNGです。その理由は2つです。
- 1つ目は、ご利用者は目上の方でお客様だからです。
- 2つ目は、ご家族やケアマネージャーの前でもその呼び方ができる?という問いにYESと答えられないからです。
新入職員が入ってくると、ご利用者をいきなり「○○ちゃん」と呼んで周囲のスタッフをヒヤッとさせることがあります。
リーダーや私が「ここのデイサービスでは必ず○○さんで統一してください。」と言うとほぼ決まって返ってくるのが次の言葉です。
「あだ名で呼んだ方が親近感がわいて信頼関係が作れますよ。」
それに対して私は必ずこう返しています。「ウチの職員を見ていてください」と。
私のデイサービスではご利用者を「○○さん」と呼んでいますが、ご利用者との信頼関係の構築ができています。
仮に、信頼関係の構築ができていない職員がいても、それはご利用者の呼び方の問題ではありません。
職員の接遇マナーのどこかに課題があったり、ご利用者との関わりの頻度などに課題があると考えています。
接遇マナーを常に意識して、丁寧な対応を心掛けている職員はご利用者を「○○さん」と呼んでも信頼関係の構築ができています。
むしろ○○さんと呼ぶことで、お客様対職員というメリハリのある対応ができるとも言えますよね。
あくまでもご利用者は目上の方でお客様ですので、職員個人の価値観とデイサービスという組織の価値観は分けて考えなければいけません。
職員がプライベートで身近な高齢者をあだ名や○○ちゃんで呼んでいても、デイサービスではデイサービスの価値観に合わせてもらうようにしましょう。
呼び方に限らず、ご家族やケアマネージャーがいる前でも同じことを自信を持ってできないのであればその行動は辞めるべきと考えましょう。
デイサービスでやってしまいがちな2つの接遇マナー違反
デイサービスでは、意外とやってしまいがちな接遇マナー違反と言えるような行為があります。
今回の記事では、2つのやってしまいがちな接遇マナー違反を紹介していきます
- 後ろから話しかける
- スピーチロック
もしかしたら文字を見ただけでドキッとする方もいるかもしれません。
ここで紹介する2つは意識をしていなかったり、そもそもダメなことという概念が無いと誰でもやってしまう可能性があります。
詳しく説明していきます。
後ろから話しかける
割とやってしまいがちなのが、ご利用者に後ろから話しかけることです。
誰だってそうだと思うのですが、後ろから話しかけられたらビックリしますよね?
分かってはいるんだけど、デイサービスでは意外とやりがちです。
ご利用者に用事があると伝えたい気持ちが先走って、席に座っているご利用者に後ろから話しかけてしまう。
そんな経験をしたことのあるデイサービスの職員は意外と多いはずです。
よく認知症ケアでも言われますが後ろから話しかけることは、聞こえにくいだけでなく相手に恐怖感を与えることにもなります。
デイサービスをご利用される方は視野が狭くなっている方も多いです。
横や後ろではなくて、正面まで回り込んで相手があなたを認識してから声をかけるようにしましょう。
スピーチロック
スピーチロックに関しては先ほども少し触れましたし、別記事でも紹介しています。
スピーチロックも知らず知らずのうちにやってしまいがちな接遇マナー違反の一つです。
スピーチロックは身体拘束の一種で「危ないから勝手に動かないで!」とご利用者の意に反して、行動を抑え込むようなことを言います。
デイサービスでスピーチロックが起きやすい場面は次の通りです。
- ご利用者のケアが重なる
- 歩行介助が必要な方が動き出す
集団生活の場ですし、安全面への配慮を考えるとご利用者の行動を制限する必要も出てきます。
ですが、その時にデイサービスの職員から一方的に行動を制限するような声掛けをしてしまうとスピーチロックになってしまいます。
スピーチロックを回避するためには「お待ちいただけますか?」など相手に判断をゆだねることも対策の一つになります。
スピーチロックはご利用者に与える影響も目に見えづらく、ついつい起きてしまいがちです。
せっかく接遇マナーの向上に取り組んできたものが台無しにならないように、スピーチロックの防止にも努めていきましょう。
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まとめ
今回は、デイサービスの接遇マナー向上の方法や重要性を中心にお伝えしてきました。
デイサービスで接遇マナーを向上させることで、次のような利点が生まれます。
- ご利用者の尊厳を守れる
- ご利用者やご家族との信頼関係ができる
- 選ばれるデイサービスになる
これらの利点は相乗効果を生んでさらにいくつかのメリットを生み出していくこともお伝えしました。
デイサービスで接遇マナーを向上させるには、意識づけ、実行、確認、再意識が重要とお伝えしてきました。
デイサービスでの接遇マナーは1日2日で身に着くものではありません。
繰り返し繰り返し行うことで、当たり前の行動になっていくものです。
接遇マナーは効果が目に見えやすいものではないので、モチベーションを保つことも難しいかもしれません。
ご利用者やご家族からの声を現場に届けながら、継続できる環境を作っていきましょう。
デイサービスでの接遇マナーは、ご利用者の満足度や安心感に直結するものです。
軽視することなく、デイサービス全体で接遇マナー向上に取り組んでいきましょう!