この記事で分かるデイサービスのことは次の通りです。
- デイサービスにおける理不尽なクレームと正当なクレームの境界線
- デイサービスへの理不尽なクレームや苦情への初期対応
- デイサービスへの理不尽なクレームや苦情へのその後の対応
- 理不尽なクレームや苦情を生まないための5つの対策
デイサービスでは、日常的にご利用者やご家族からの要望や要求を受けることがあります。
もう少し大きくなるとクレームや苦情となり、その対応を行うことも業務の中の1つです。
私自身もそうなのですが、その中でも対応が難しいと感じるのは理不尽なクレームや苦情への対応です。
理不尽なクレームや苦情対応の難しさ
- そもそも理不尽と正当の境界線が分からない
- 理不尽だと感じた場合に、全ての要求をのみ込む必要があるの?
- デイサービスに非がないのに金銭要求された場合どうしたらいいの?
- 理不尽なクレームや苦情だと判断した後に、どのくらい相手の話を聞けばいいの?
- 理不尽なクレームや苦情にも生活相談員が対応すべき?
- そもそも理不尽なクレームや苦情を生まない方法はないの?
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情対応には多くの疑問があります。
私もデイサービスの生活相談員や管理者経験の中で「あぁ理不尽なこと言われているなぁ」と思いながらクレームや苦情の対応を行ったこともありました。
今回は、私のデイサービス10年以上の勤務経験の中で理不尽なクレームや苦情にどのような対応をして来たかも含めてお伝えしていきます。
そもそも理不尽と正当の境界線をどう判断するか、初期対応やその後の対応、そもそも理不尽なクレームや苦情を生まない方法などを詳しく解説していますのでぜひ最後までご覧ください。
この記事を書いている私に関して
- デイサービス勤務歴11年以上の経験の中で、介護職、生活相談員、管理者を経験する
- デイサービスの生活相談員や管理者(社会福祉士)として10年以上にわたり相談窓口として勤務する。
- クレームよりもクレープやクリームブリュレが好き(ここ重要。テストにでます。)
クレームと苦情はどう違う??
クレームと苦情は同じような意味で使われる方が多いのではないでしょうか?
私の場合も、普段からクレームと苦情を明確に使い分けているかと言うとそうではありません。ほとんど同じような意味で使っている場合が多いのが事実です。
ですがデイサービスで他の職員や上司などと情報を共有するうえでは、クレームと苦情はしっかりと使い分けができるようになっておいた方がいいでしょう。
一般的にクレームと苦情は次のように使い分けをされています。
- クレーム=なんらかの不利益を被った時に、金銭など何かしらの補償を要求すること
- 苦情=なんらかの不利益を被った時に、不満の内容を伝え是正を求めること
この記事を書いている私はざっくりと上記のような使い分けをしています。
要は、デイサービス側の不手際に対して是正を求める声なのか、金銭などの何かしらの補償を求める声なのかで苦情かクレームかを使い分けるということですね。
ご利用者と密に関わるデイサービスにおいては、クレームや苦情の声はいつ届いてもおかしくはありません。
もちろんクレームや苦情の声が届くこと自体が悪い事ではありません。ご利用者やご家族などの声を吸い上げる仕組みができていて、言いやすい環境であるという点ではむしろ優秀なデイサービスと言えますよね。
ですが反対にご利用者側がデイサービスに要望や要求の声を届けづらい環境の場合には、今回のテーマでもある理不尽なクレームや苦情につながることもあります。
では、デイサービスで起きる理不尽なクレームや苦情と正当なクレームや苦情との境界線はどこなのでしょうか?
理不尽なクレームや苦情と正当なクレームや苦情との境界線は?
デイサービスでクレームや苦情の受付をしている時に、どこまでが正当な訴えでどこからが理不尽な訴えなのかの境界線は難しいですよね?
実際に理不尽なクレームや苦情にも明確な定義は無いと思いますが、判断基準として次のような線引きをしておくといいでしょう。
- 何かにつけて金銭を要求してくる
- 対応どうこうでなく職員の人格を否定してくる
- 何度も電話をかけてくる
- 大声で怒鳴りつけてくる
- 過剰サービスをしつこく求めてくる
上記のような場合は、理不尽なクレームや苦情である可能性が高いといえるでしょう。
理不尽という言葉には、『道理に合わない』『矛盾している』『筋が通らない』などの意味があります。
相手の訴えをよく聞いたうえで訴えていることと求めていることに筋が通っていない場合には正当の境界線を越えた理不尽なクレームや苦情として対応していくことも考えましょう。
では詳しく解説していきます。
何かにつけて金銭を要求してくる
なにかにつけて金銭を要求してくる場合には、デイサービスに是正を求める正当なクレームや苦情ではなく理不尽なクレームと言えるでしょう。
もちろん中には、デイサービスの不手際が原因で補償が必要な事案が発生することはあります。
ですが最初からデイサービスのちょっとした不手際に付け込んで金銭を要求してくる場合には、注意が必要です。
例えばデイサービスでご利用者の荷物を入れ忘れたまま退所した場合に、次のようなクレームが来たら正当なクレームとは言えませんよね。
「デイサービスで荷物を入れ忘れたから、探すのに時間を使った。身体的苦痛を味わったから〇〇万円支払え!!」
金額の大小に関わらず、明らかに金銭を要求するようなケースでない場合には理不尽なクレームだと判断できるでしょう。
ハッキリと金銭を要求しないにしても「誠意を見せろ!」などと暗に金銭を要求してくるケースもあるでしょう。
金銭での補償が必要なケースかどうかは、個人では見極めが難しいためその場で即答しないように気を付ける必要があります。
対応どうこうでなく職員の人格を否定してくる
デイサービス側の対応に不手際があったわけでもないのに、職員個人の人格を否定してくる場合には理不尽なクレームや苦情と判断して良いでしょう。
特定の職員の名前を出して、
- 能力がない
- バカ、あほ
- 辞めさせろ
などと相手の訴えの中で具体的な内容もないのに人格否定をして来る場合には、具体的になぜそのように思うのか確認するようにしましょう。
中には具体的な内容をうまく伝えられない方もいますので、理不尽か正当かの境界線を見極めるには次のようなポイントに気を付けます。
- 相手が話している間に急かさない
- 人格否定をされた職員当事者にも話を聞く
- 他の職員にもなにかトラブルがなかったか確認する
それでも特段、クレームや苦情につながるような内容がないのであれば悪質なクレームや苦情として判断します。
もし職員に何かしらの不手際や不適切な言動があったのであれば、内容をしっかりとお聞きして通常の苦情対応として改善していきましょう。
何度も電話をかけてくる
例えばデイサービスに何かしらの不手際があり、家族等から不手際の説明を求められたとします。
それに対して、デイサービス側が明確な説明をしているにも関わらず何度も何度も電話をかけてくるような場合には理不尽なクレームや苦情と言えるでしょう。
- 説明をしたにも関わらず、同じ内容の説明を求めてくる
- 説明した内容の粗探しをして、電話を切った後でも何度も電話をかけてくる
- 何度も電話をかけてくるうちに、再度最初の説明をすることになる
- 対応を検討して再度連絡すると伝えても数分後に電話をかけてくる
こういった場合にはクレームや苦情で訴えたい内容が不明確で、次のような目的で電話をしてきている可能性があります。
- デイサービスの業務を邪魔したい
- とにかく何かしらの文句を言いたい
- かまってほしい
適切な対応をしているにも関わらず、何度も電話をかけてくる時には理不尽なクレームや苦情と判断して対応していきましょう。
大声で怒鳴りつけてくる
大声で怒鳴りつけてくるクレームや苦情は理不尽なものか正当なものか境界線が難しい部分でもあります。
単に声が大きいというだけで内容は正当なクレームや苦情の可能性もありますからね。
反対に、大声を出してデイサービスの職員を威嚇することで意図的に金銭などの要求をしやすくしている場合もあります。
後者の場合には理不尽なクレームとして判断していきましょう。
クレームや苦情の内容がどういったものなのか、冷静に話を聞くことで判断をしやすくなります。
大声で怒鳴りつけてくるようなクレームや苦情は体力的に長続きしません。
相手のトーンが落ち着いたところを狙って、相手の訴えがなんなのか冷静に聞き取るようにしましょう。
過剰サービスをしつこく求めてくる
デイサービスでクレームや苦情の対応をしていると、デイサービス側としても譲歩して歩み寄りが必要な部分は出てきます。
ですがデイサービスに寄せられるクレームや苦情の中には、デイサービス側が譲歩できる境界線を超えて過剰なサービスを求めてくるケースもあります。
過剰サービスをしつこく求めてくる場合には理不尽なクレームや苦情と判断しましょう。
デイサービス側が譲歩できる境界線に関しては次のような基準でそれぞれのデイサービスによって決められている場合が多いですよね。
- 法的根拠から外れないか
- 他のご利用者に適切なサービス提供ができるかどうか
- リスクの割合が大きくないか
- 職員の負担が増えないか
デイサービスはいわゆる一般的なサービス業とは違い介護サービスを提供する事業所です。
介護保険制度という枠の中でできることとできないことがあります。
ですがご利用者やご家族には説明をしていても意外とその事実は伝わっていなく、デイサービスを利用するとなんでもやってもらえると思っている場合があります。
もちろん説明をすることで納得される方が大半ですが、中には説明をしても納得できずに何度も過剰なサービスを要求してくるケースもあります。
そのような場合には理不尽なクレームや苦情として対応を進めていくようにしましょう。
理不尽なクレームや苦情は初期対応を間違えないようにしましょう
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情は、初期対応を間違えると後に大きなトラブルに発展していく可能性を秘めています。
また、理不尽なクレームや苦情とわかっている場合には真剣に向き合うことで精神をすり減らしてしまい精神衛生上もあまりよくありません。
機械的にというと語弊があるかもしれませんが、心を入れ込み過ぎず感情的にならずに次のような初期対応を心掛けていきましょう。
- まずは相手の話を聞く
- 複数人で対応する
- 話し合いの経過記録をつける
- 謝罪する範囲を限定する
- ケアマネージャー等に迅速に報告する
理不尽なクレームや苦情であっても通常のクレームや苦情と対応はさほど変わりません。
しかしながら、理不尽なクレームや苦情は相手が求めているものが不明確な迷惑行為であったり金銭要求の為の脅しのような場合もあります。
正当なクレームの境界線を越えて理不尽なクレームや苦情とわかっている場合には毅然とした態度で淡々と対応をしていきましょう。
まずは相手の話を聞く
デイサービスにクレームや苦情が入る場合には、基本的に相手方はデイサービス側のミスや不手際を訴えながら是正や補償を求める場合が多いです。
つまり理不尽なクレームや苦情よりも、正当なクレームや苦情の数の方が圧倒的に多いですよね。
そのため、デイサービスにクレームや苦情が来たからといって最初から相手が理不尽だと決めつけないようにしましょう。
デイサービスの職員はまずは相手の話をよく聞いて次のようなポイントをしっかりと確認するようにしましょう。
- デイサービスのミスや不手際の内容
- デイサービスのミスや不手際に対して何を求めているか
- どの程度興奮しているか
デイサービスにどのようなミスや不手際があって、そのミスや不手際に対して何を求めているのかはその後の対応をしていくうえで重要な情報になります。
デイサービスのミスや不手際の内容と相手が求める是正や要求の内容が釣り合っていない場合には、理不尽なクレームや苦情の可能性も高くなってきます。
また、相手の興奮度合いも肌感でもいいですので感じておくようにしましょう。
相手の興奮度合いが高く、捲し立てるように話をしている時には決して反論をしないようにしましょう。そこで反論してしまうと次は内容が変わってあなたの対応に対して苦情を言うようになってきます。
まずはとにかく話を聞くことです。興奮状態は長い時間続かないので、相手の興奮状態が収まるまで適度な相槌を打ちながら傾聴するようにしましょう。
複数人で対応する
クレームや苦情対応の基本にもなりますが、クレームや苦情が来た後の対応は必ず複数人で行なうようにしましょう。
自分が最初にクレームや苦情を受けたからといって、自分だけの判断で動かないようにすることは鉄則です。
複数人で対応することで次のような効果があります。
- 大声や脅しのような理不尽なクレームにも毅然と対応ができる
- 話の内容を記録しておくことができる
- 相手の怒りが複数人に分散される(ように感じる)
- 組織として正しい判断ができるようになる
- 状況によって管理者等の上司が対応することもある
特に理不尽なクレームや苦情の場合には、様々な場面で『どうしたらいいの?』と判断が難しい場面にあたります。
上司や他の職員にもクレームや苦情の内容や相手の興奮の度合いを共有しておきましょう。
複数人で対応していくことで、間違えた判断をすることなく理不尽なクレームや苦情にも対応していくことができるようになります。
経過記録をつける
経過記録をつけておくことも、デイサービスでのクレームや苦情対応の基本ですよね。
理不尽なクレームや苦情が発生した場合には、必ず経過記録をつけておきましょう。
具体的には次のような内容は必ず記録に残しておきましょう。
- クレームや苦情が来た日時
- クレームや苦情の内容や要求されていること
- 職員等に事実の確認をした日時
- 職員等に事実の確認をした結果
- 相手に返信をした日時と内容
- その後の経過
デイサービスに限らず、介護業界にいる方は記録の重要性は身に染みていると思いますので、言わずもがなですよね。
最初は決まった様式でなくても、メモ紙でもいいので必ず記録を残しておきます。
人の記憶は時間と共に薄れていきます。記録がないと後で言った言わないの論争になったり、同じ話を繰り返すことになり非常に不毛な時間を過ごすことになります。
経過記録は自分たちを守ることにもつながりますので、必ず経過記録は残しておくようにしましょう。
謝罪する範囲を限定する
理不尽なクレームや苦情で相手にまくし立てられると、とにかくその場を切り抜けたい一心ですぐに「申し訳ございませんでした」と謝罪したい気持ちになります。
ですが、何に対して謝罪をしているのかを明確にしておかないと相手は「自分の要求が全て受け入れられた」と勘違いをしてしまいます。
そこで謝罪をする時に気を付けなければいけないポイントは次の点です。
相手の話のどの部分に対して謝罪をすべきか
クレームや苦情を受けた初期段階では、ミスや不手際の事実に気付いていなかったり、気づいていたとしても詳細が不明確な場合が多いでしょう。
事実が分からない中でクレームや苦情が来たからと「すみません」「申し訳ございません」と漠然と謝罪することは先ほど説明したように得策ではありません。
ですが、理不尽であろうが何だろうがクレームや苦情の申し立てをしてきているということは、デイサービスの何かに不満足で不快に感じているという場合が多いです。
ですので、初期段階で事実確認ができていない場合には『不快な思いをさせてしまった』ことなど範囲を限定して謝罪するようにしましょう。
そのうえで『早急に事実確認をして、折り返し連絡すること』をご利用者やご家族等とお約束するようにしましょう。
ケアマネージャー等に迅速に報告する
理不尽なクレームや苦情が発生した場合には、必ずケアマネージャーや包括の担当職員に迅速に報告しましょう。
重要なのは『迅速に』という部分ですね。
私の考え方の一つに、先か後かで印象が変わるということがあります。
要はケアマネージャーにデイサービスが先に報告をするか、ご利用者からの連絡が先に行くかでケアマネージャーに与える印象が全く変わってしまうということですね。
報告が遅くなるほど、余計な不信感を与えたり、なぜ今さら?とネガティブな印象を与えてしまいがちです。
そうすることでケアマネージャーから公平な立場で話を聞いてもらえなくなってしまう可能性があります。
理不尽なものに限らず、デイサービスでクレームや苦情が発生した場合には次のポイントについて迅速にケアマネージャー等に報告しましょう。
- ご利用者からクレームや苦情が発生したという事実
- クレームや苦情の内容
- 現時点でデイサービスで把握している事実
- これからデイサービスとしてどんな対応を考えているか
報告が早いほど、ケアマネージャーもデイサービスに対して協力的に動きやすくなります。
完結してから報告するのではなく、途中経過であってもできる時に報告をしておきましょう。
理不尽なクレームや苦情への対応方法
ここまでは、デイサービスへの理不尽なクレームや苦情の境界線や初期対応についてお伝えしてきました。
では実際に理不尽なクレームや苦情と判断して初期対応まで完了した段階からはどのように対応を進めていくといいでしょうか?
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情には、次の3つのポイントを意識して対応していくようにしましょう。
- 理不尽な要求は勇気をもって断る
- 責任者が対応する
- あまりにも悪質な場合には行政や警察にも相談する
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情への対応は、何も生み出さないだけでなく本来他のご利用者に対応できる時間も割くことになります。
正当なクレームや苦情と違って、理不尽なクレームや苦情の対応はデイサービスにとってマイナスにしかならないということです。
唯一プラスになる事は理不尽なクレームや苦情の対応を経験できたということくらいですかね。
上記3つのポイントを意識して、デイサービスへの理不尽なクレームや苦情に対応していくことで次のようなメリットも生まれます。
- 早期に対応を打ち切ることができる
- 現場職員が無駄に疲弊せずに済む
- 無用なトラブルを回避できる
理不尽なクレームや苦情を知っておくことでデイサービスや職員を守ることにもつながります。
では詳しく解説していきます。
理不尽な要求は勇気をもって断る
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情と判断した場合に相手の理不尽な要求は勇気をもって断るようにしましょう。
理不尽な要求の代表例として次のようなものがあります。
- 土下座しろ!
- ○○をクビにしろ!
こういった要求は明らかに、クレームや苦情で要求できる範囲を超えていると判断してきっぱりと断るようにしましょう。
あくまでもクレームや苦情の本質の内容への対応はできる範囲でするけれども、それ以上の対応は毅然とした態度で断りましょう。
明らかに理不尽な要求に対しても、返事をはぐらかしていると話は長引いていくばかりです。その分、理不尽なクレームや苦情に対して誰かしらの時間が奪われて行くことになります。
理不尽な対応を要求してくる場合には「これ以上要望に応えることはできない」旨を伝え、それ以上の交渉も打ち切るようにしましょう。
責任者が対応する
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情に対しては、権限を持っている責任者が対応するようにしましょう。
デイサービスの相談苦情窓口は、生活相談員になっている事業所が多いと思います。
ですがデイサービスへの理不尽なクレームや苦情に現場職員が対応し続けると次のようなデメリットが生まれます。
- 理不尽なクレームや苦情の対応だけで現場が疲弊する
- 相談窓口として機能しなくなる
- 既存ご利用者の対応がおろそかになる
- 確認する時間分対応が長引く
理不尽なクレームや苦情に現場職員が関わり続けてしまうと、現場の疲弊や相談窓口としての機能不全が起きてしまいます。
クレーム対応は全てがデイサービス側の思うとおりに動くわけではないので、上司に確認するというワンクッションの行程があるとそのぶん対応も長引くことにもなります。
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情では次のような場面で権限のある職員が判断する場面に出くわします。
- それ以上の要求を断る
- 契約解除の提案をする
- 悪質なクレームとして然るべき対応を取ることを伝える
理不尽なクレームや苦情に対応する時間は不毛な時間です。理不尽と判断した時点でできる限り短時間で打ち切れるようにすることが得策でしょう、
そのためその場その場で判断をすることができる、権限のある責任者が対応をしていきましょう。
悪質な場合には行政や警察にも相談する
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情があまりにも悪質な場合には、行政や警察にも相談しましょう。
例えば、次のような場合には悪質な事例として行政や警察に相談する対象になるでしょう。
- SNSに晒すぞ!
- 殴り込みに行くぞ!
- この地域で暮らせないようにしてやるぞ!
- 実際に暴力を振るわれる
- 土下座をしつこく強要する
デイサービスの信用失墜を示唆するような言動や、著しく精神的苦痛を与えようとするものは悪質と判断して良いでしょう。
すぐに行政や警察に相談しておくようにしましょう。
行政への相談に関して「?」と思う方もいるかもしれません。
場合によっては対象ご利用者とデイサービスの契約を解除することにも十分なり得ますので、後に一方的にサービスを中止したと思われないように事前に行政に相談をしておいた方がいいでしょう。(私は石橋をたたいて渡るタイプです。)
職員が脅威を感じたり、デイサービスの社会的信頼を失墜させるような行為は事が起きてからでは遅いです。
職員の離職や体調を崩す原因にもなりますし、変な噂が広まってしまうと利用控えも起き運営に大きく影響を与えることになります。
脅迫めいた発信はデイサービス対お客様だからといって我慢する必要はなく、行政や警察という社会資源を十分に活用しましょう。
デイサービスで理不尽なクレームや苦情を生まない5つの対策
では、そもそもデイサービスへの理不尽なクレームや苦情を生まないためにはどうしたらいいでしょうか?
ここでは、デイサービスで理不尽なクレームや苦情を生まないために次の5つの対策を紹介していきます。
- 十分にコミュニケーションを取っておく
- 前例を作らない
- 小さな情報でも共有しておく
- 前のデイサービスを辞めた理由を確認しておく
- 契約時に説明しておく
デイサービス側が普段から意識して行動するだけで、理不尽なクレームや苦情は未然に防ぐことができます。
対策とは言っても、改めて何か特別なことをするわけではなく、凡事徹底と言う方が近いと思います。
デイサービスとしてデイサービスがやるべきことを当たり前のようにやっていれば、理不尽なクレームや苦情は未然に防止できるでしょう。
では5つの対策について解説していきます。
十分にコミュニケーションを取っておく
冒頭でもお伝えしたように、デイサービスに対してクレームや苦情が入るのは悪い事ではありません。ですが理不尽なものとなると別ですね。
正当なクレームや苦情はデイサービスに言いやすい環境や関係性だからこそ発生します。
ですが、理不尽なクレームや苦情はデイサービスに意見や要望を言いたくても言えない環境や関係性によって生み出されます。
積もりに積もったものが爆発して要求が大きくなっていく可能性があるということですね。
つまり理不尽なクレームや苦情が発生する原因がどこにあるかというと、ご利用者やご家族とのコミュニケーション不足だと考えています。
特にデイサービスでは、ご利用者とはコミュニケーションをとる時間を十分に確保できていても、ご家族とがっつりコミュニケーションを取れる機会は少ないですよね。
ですが、デイサービスでもご家族とコミュニケーションを取れる手段はあります。
ご家族とのコミュニケーション手段
- 送迎時
- 電話
- 手紙(文書)
- メール
特に遠方にお住いのご家族とは、コミュニケーションを取れる機会は極端に少なくなりがちです。
そういった場合にはメールや電話でご利用者の現状を報告するだけでなく、請求書を送付する時にご本人の写真付きの文書を一緒に送付するなど一方通行でもいいからコミュニケーションは取っておくべきでしょう。
小さなコミュニケーションの積み重ねがデイサービスへの信頼や、言いやすい関係作りにつながります。
コミュニケーションを取っておくことで、不満や要求の火種が大きくならないうちに言っていただけるようになっていきます。
前例を作らない
前例を作ってしまうと、理不尽なクレームや苦情は起きやすくなります。
例えば、本来はできないことや継続してやり続けられないことを「今回だけ特別」と言って前例を作ってしまうことは絶対に避けましょう。
デイサービスでは次のような場合にできないことの前例が生まれやすいです。
ポイント
- 管理者が変わる
- 指示系統が確立していない
- 連携が取れていない
できないことの前例が生まれやすいのが、管理者が変わるようなタイミングです。「前の管理者はやってくれたのに・・・」という文言は苦情の中でも発生しやすいので注意が必要です。
私のデイサービスでは前の管理者がほとんど運営にタッチしていなかったため、そういった前例は生まれませんでした。
ですがコンサルの方と話す機会があった時に、管理者が異動で変わるようなタイミングでは発生しやすい事案だと教えてもらったことがありました。
デイサービスで管理者をされている方は「自分だからできる」と意気込んでしまうと、次の方に迷惑をかけたり組織の信用を失うことにもなりますので長期的な視点を持って冷静に判断しましょう。
また、どの程度のことを誰が判断するかという指示系統が確立していなかったり、職員同士の連携がとれていないような場合にもその場その場で個々人の判断になってしまいます。
すると「あの職員はやってくれたのに、あの職員はやってくれない」などと、生まなくてもいいクレームや苦情を生むことになります。
「今回だけ特別」と言ってやってしまうと、ご利用者側からすると「特別だった」ことはどうでもよくて「やってもらえた」という事実だけが記憶に残っていきます。
そうすると次に同じことをやってもらえなかった時に「前回はやってくれたのに今回はやってもらえない」とわざわざ苦情の火種をつけることになってしまいます。
苦情の火種がくすぶり続けると、本質からは外れた理不尽なクレームや苦情につながる可能性が高くなります。
もちろん、ご利用者のためにできることはしたいという気持ちは分かりますが、あくまでもデイサービスという組織で動いているということは常に頭に入れておきましょう。
小さな情報でも共有しておく癖をつける
デイサービスで理不尽なクレームや苦情を生まないためには、小さな情報でも共有しておく癖をつけましょう。
共有する範囲としては主に次のようなところでしょうか。
- 職員同士
- デイサービスとご利用者
- デイサービスとご家族
- デイサービスとケアマネージャー
では、小さな情報でも共有しておくというのはどういうことでしょうか??
例えば、デイサービスではご利用者の荷物の入れ忘れや他の方の荷物に入れてしまう入れ間違えなどは発生しやすいミスです。
そのミスに気づいた場合にあなたのデイサービスでは、どんな考え方に至るでしょうか?
職員が1人で対応していた場合に「○○さんは明日もデイサービスに来るし、明日伝えて謝ればいいか。相談員に報告するまでもないな」
生活相談員が報告を受けていた場合に「次回お迎えに行った時に直接謝ればいいか」
上記のように考えている場合には、理不尽なクレームや苦情を生む火種をつけている可能性があります。
ご利用者ご家族からしたら、困っていたのは自分の荷物が無いと気づいた時ですよね?
翌日以降に報告されたところで困っていた時に連絡をくれずに、気づいていたのにも関わらずなぜ連絡もしないんだと不信感につながります。
1つ不信感を生むと、他にも何かあるんじゃないかと注意を払って見られるようになります。
このような関係はお互いにとって不健康な関係性ですし、デイサービス側がわざわざこの関係性を作る必要はありません。
小さな情報の共有は、言葉を変えればコミュニケーションを取るということです。
「このくらいなら報告しなくてもいいかな?」ではなく「このくらいでも報告しておこう」という癖をつけておきましょう。
前のデイサービスを辞めた理由を確認しておく
前に通っていたデイサービス辞めて、あなたのデイサービスを利用される場合には前のデイサービスを辞めた理由を必ず確認しておくようにしましょう。
というのも前のデイサービスを辞めてきたということは、何かしらご本人に合わない所があったり、トラブルになって辞めている可能性があるからです。
つまりその理由を知っておかないとあなたのデイサービスでも合わずにトラブルになる可能性を秘めているということです。
デイサービスを辞めた理由を確認したうえで、あなたのデイサービスでできる範囲を説明しておきましょう。
例えば私のデイサービスに実際に相談があった事例を2つ紹介します。
事例①
1つ目が「前のデイサービスではタバコが吸えなくて辞めたんですけど、なひのひさんの所ではタバコは吸えますか?」という相談です。
この相談に関しては私のデイサービスでは、喫煙スペースが無いのでお断りさせていただきました。
事例②
「職員とのトラブルでデイサービスを辞めて、なひのひさんの所でお願いできないですか?」という相談でした。
トラブルの内容を聞くと男性のご利用者だったのですが「職員からセクハラ呼ばわりをされたということでした。」
もう少し詳しく話を聞くと「ご利用者が職員に卑猥な発信をしたり、偶然を装ってボディータッチがあった」ということでした。
それに対し職員が「セクハラなので辞めてください」と言ったところ「セクハラ呼ばわりをされた」と憤ってデイサービスを辞めたというのです。
私は「おいおい」と思いながら話を聞きましたが「セクハラ行為が発覚した時点でデイサービスの利用を中止する」(実際には言葉を選んで話しましたが)という条件を了承いただいてデイサービスのご利用を開始していただきました。
結果として、亡くなるまで疑わしき行動もなく平穏にデイサービスをご利用されましたね。
理不尽なクレームや苦情を防止するだけでなく無用なトラブルを回避するためにも、デイサービスを辞めた理由は確認しておくようにしましょう。
契約時に説明しておく
デイサービスでの契約時には、デイサービス利用中の禁止行為等について相手に伝わるように説明はしているでしょうか?
禁止行為の内容や禁止行為を行なった場合どうなるかという説明を省略していると、後ほど理不尽なクレームや苦情につながったり聞いた聞いていないの話になってしまいます。
デイサービスの契約書または重要事項説明書にはサービス中止になる場合について明記されていると思います。
一般的な例で言うと次のような旨の記載があるのではないでしょうか。
- 重大な虚偽報告があった場合
- 料金の支払いが2か月以上滞った場合
- 職員又は利用者の生命、身体、財産、信用を傷つけた場合
- 著しい背信行為を行なった場合
- 入院した場合
- 介護施設に入所した場合
- 死亡した場合
大雑把にこのような内容が記載されている場合が多いでしょう。
入院、入所、死亡などは分かりやすいと思いますが、著しい背信行為って何?ってなりますよね。
著しい背信行為については、訪問介護で裁判になった事例もあります。
割愛しながら説明すると、ヘルパーが家族から暴力を受け、事業所がサービス停止措置をとりました。
するとサ責がご利用者の家族から1時間怒鳴られ、塩を投げつけられたというのです。
結果として契約解除が認められたという判例でした。
ご利用者に説明をする時にわざわざ凡例まで持ち出す必要はありませんが「暴力行為や暴言、デイサービスの営業活動を妨げる行為はサービス利用中止の対象になります。」ということはハッキリと説明しておきましょう。
まとめ
今回は、【悪質と正当の境界線】デイサービスで理不尽なクレームや苦情への対応方法を解説!!というテーマでお伝えしてきました。
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情と正当なクレームや苦情は次の基準を持って判断しましょう。
- 金銭要求
- 人格否定
- 過度な電話
- 大声
- 過剰サービスの要求
上記のような基準をもとにしながら、相手の訴えの筋が通っているかどうかでクレームや苦情が理不尽か正当か判断していきましょう。
理不尽なクレームや苦情と判断した場合には、初期対応が重要になります。
初期対応を間違えると予期せぬトラブルにつながっていったり、職員の疲弊につながっていきます。
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情に対しては、まずは相手の話を聞いたうえで謝罪の範囲を限定したり、経過記録を残しておくようにしましょう。
ケアマネージャーに迅速に連絡しておくことで、デイサービスに協力的に動いてくれることも期待できるでしょう。
デイサービスでの理不尽なクレームや苦情への対応の中では次のことも頭に入れておきましょう。
- 理不尽な要求は断る
- 責任者が対応する
- 行政や警察への相談も視野に入れる
デイサービスへの理不尽なクレームや苦情を未然に防ぐには、普段からご利用者やご家族とコミュニケーションを図り、事前に要望などを確認しておくようにしましょう。
クレームや苦情は複雑化している傾向にあり、理不尽なものか正当なものか判断が難しいこともあります。
普段からご利用者やご家族と良好な関係性を築いておくことで、要求が大きくなる前に意見や要望を吸い上げやすい環境になっていきます。
デイサービスでは日常的なコミュニケーションをないがしろにせずに、理不尽なクレームや苦情を生まない環境づくりをしていきましょう!!